アンビエント・ドライヴァー

 

あんまり大きな声じゃ言えないけど、このブログを読んでいる読者もたぶんそっちの関係者が多いと思うので言ってしまうと、僕はニコニコ某で配信をやっています。

今日も今日とて、性懲りもなく常連さん達とぼんやりしたトークを繰り広げていた中、僕は「失くして初めて気づく大事なこと」というフレーズが気になるという旨の発言をしました。女子大生の常連リスナーが最近たて続けに自己啓発本を買って読んだという話を受けて、ふと思い浮かんだ話です。

余市というジャパニーズ・シングルモルト・ウイスキーをストレートでひっかけていたので、全然キレのあるコメントはできなかったんだけど、酔いも醒めてきたので、ちょっとその意味を後出しで考えてみる。例によってまとまりはありませんが。

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という有名な言葉があるけど、ググったところ、これは、かの鉄血宰相ビスマルクの言らしい。愚かな人は自分の経験でしか物事を語れず、賢者は先人の行いから予めそれらを学び知るというような意味かと思う。

ただ、どんな言葉でもそうだけれど、字義通り、原理主義的にそれらを解釈してしまうと、「生兵法は大怪我のもと」過ちに陥りやすく、かと言って、いっこうに顧みない者はニの轍を踏む。もやもやするのはこのバランスについてだ。

どんなに賢く生きようとしても経験は必要で、ありとあらゆる事態が想定されているわけもなく、全ての対処法が書物に記されているわけでもない。どんな人でも失敗はするし、今この時に気づいていない大事なものを何かのはずみに失うことだって誰にでもあるはずなのだけど、全てを見通すような視点で書かれる本に僕は意味を見出せない。あの手の本は断定口調で書かれますよね。有名なやつだと、

「明日のために、あなたは今すぐ○○をやめるべきなのだ!」みたいなの。

ナカタニ本。誰かにズバっとそう言ってもらえると安心するのかもしれないけど、僕はほとんどの場合それに乗っかれない。人生うまく行ってる人は、これこれ斯様にしたから私はうまく行ったという自慢話を書きたがりますが、おまえがうまく行ったのは、だいぶ運だぜ、環境だぜと言いたくなることが多く、最近読んだ本だと「ヤタロウ本」も厳しかったです。高校中退して、外国を放浪して、帰ってきて中目黒にオシャレ書店を出したって人なんですが、ヤタロウさんのとても思慮深いとは思えない思考や生活態度よりも、それだけ好き放題放浪、出店できた金がどっから出てんのかって方が遥かに重要だったろうと思っちゃいましたね。

ま、つまり。人生の成功者の書いた啓発本なんか読んだって、賢者が知るべき「歴史」ではないわけじゃないですか。それはそもそも選ぶべき本が賢くないっていう話なんだけど。なんであんな本が売れちゃうのかわかんねーなー。

ね、まとまらない話で、ほとんどつまんない本書いて儲かってる奴への妬みと悪罵になっちゃいましたが。そんなこともぼんやり考えつつ、寝る前に今日読む本を本棚からひとつ取ってみたのが、だいぶ昔に買って積んでた細野さんの「アンビエント・ドライヴァー」。この本は、あんなに成功したミュージシャンの細野さんも、YMOが思いの外売れてしまったことで、逆に悩んでいたというある種告白になっていて、もうわずかばかりの成功を鼻にかけて説教するキン○マのちっこいおっさんの本なんかより全然信頼できるっていう内容で。とても面白く読み進めるうちに、「おっ」と心に止まる箇所があった。

 

 " かつて、僕は友人からもらった不思議な石を宝物にしていた時期がある。それを失くしてしまったときには、ひどくショックを受けた。だが、そのとき初めてモ ノにこだわらなくていいことに気づいた。モノというのは、何かを教えてくれるにすぎないのだから。そのほかにも、僕は大切なレコードのコレクションや楽器 を失くしている。モノを失くすと、モノとモノの間が見えてくる。知るというのは、結局そういうことなのではない か。"                                                         

                                                                  - 細野晴臣アンビエント・ドライヴァー」-

 

数日前に断捨離でもないけど、部屋に山積みになってる本とCDの一部を処分した。ダンボール4箱分くらい。コレクターの気持ちもわかるんだけど、僕は本棚に入りきらない程の本は持たないようにしようというルールを設けてる。CDも堆く積もる一方だったんだけど、これから先の人生で再び聴き直さないだろうというものは手放した。誰かにもらった大切なモノもこれからは捨てるかもしれないなとその時ふと思ったんだけど、細野さんのこの文章を読んでて改めてその気持ちがなぞられた気分だ。

”モノは何かを教えてくれるにすぎない” 

音楽の聴き方も今の時代(のせいかどうかはわからないけど)は共有という方向性が強いように思う。CDという円盤そのモノよりも、その時一緒に聴いた人たちと感じたことの方が俺にとって大切なことだったんじゃないかな、なんてことを思っていました。まあ、それゆえにモノが大事だって気持ちもわかるけどね。ただ、俺は以前程モノへの執着は薄れたかなーと思ってるんです。

 

 

アンビエント・ドライヴァー (MARBLE BOOKS)

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